一方で、SNSが選挙結果を単独で決めると見るのは早計だ。世界の報道は、SNSを「新しい政治参加の場」と見ると同時に、「偽情報・外国干渉・アルゴリズムによる増幅」のリスクとしても捉えている。
日本報道の要約:YouTubeと「切り抜き動画」が選挙の可視性を変えた
日本では、2025年参院選をめぐり、YouTube上の選挙関連動画や切り抜き動画の影響が大きく注目された。選挙ドットコムは、同選挙でYouTube上の関連動画再生回数が前年の衆院選や都知事選を大きく上回り、17億回超に達したと報じている。
同記事は、参政党など新興政党の躍進を背景に、従来の街頭演説やテレビ報道だけでなく、YouTube、ショート動画、第三者による切り抜きコンテンツが選挙情報の接触経路として存在感を高めた点を取り上げている。
ただし、日本報道もSNSの影響を単純な「勝因」として断定しているわけではない。選挙過程では、分断をあおる言説やデマへの懸念も示されており、SNS選挙は「政治参加の拡大」と「情報環境の不安定化」の両面から論じられている。
海外メディア比較:SNS選挙を世界はどう見ているのか
| 国・地域 | 媒体 | 主な論点 | 報道のトーン |
|---|---|---|---|
| 日本 | Reuters | 参政党の支持拡大とYouTube世代 | 新興政党の可視性、若年層への浸透、移民・外国人論点の拡散を分析 |
| 米国・国際 | Reuters Institute | 若年層のニュース接触がSNS・動画へ移行 | 候補者・政治家が既存メディアだけでなく、YouTubeやXのクリエイター経由で有権者に接触する変化を指摘 |
| 欧州 | Reuters | ルーマニア大統領選とTikTok規制 | アルゴリズム、政治広告、外国干渉リスクを民主主義の安全保障問題として扱う |
| 米国 | AP | ロシア系国営メディアのTikTok利用 | 若年層への影響、国家系情報発信、プラットフォーム対応を選挙リスクとして報道 |
| 米国 | Pew Research Center | SNSでニュースを得る有権者の増加 | Facebook、YouTube、TikTok、Xなどがニュース接触の場になっている実態をデータで整理 |
日本:SNSは新興政党の「発見されやすさ」を高めた
Reutersは、日本の参政党について、YouTubeやSNSを通じた発信が若年層への可視性を高めたと報じた。記事では、参政党が2025年参院選で議席を伸ばしたこと、若年層や男性の支持が目立つこと、YouTube上での存在感が既存政党より強いとされる点が取り上げられている。
この報道で重要なのは、SNSを単なる広告媒体ではなく、「既存政党では届きにくい層へ政治メッセージを届ける回路」として扱っている点だ。一方で、Reutersは外国人をめぐる言説や排外主義への懸念も併せて報じており、SNS動員の成功と社会的分断のリスクを同時に見ている。
米国:政治家はテレビ局だけでなく、クリエイターの番組にも出る
Reuters InstituteのDigital News Report 2025は、若年層を中心にSNS・動画プラットフォームがニュース接触の中心になっていると分析している。米国では、18〜24歳の54%、25〜34歳の50%が、SNSや動画ネットワークを主なニュース源としているとされる。
同レポートは、米大統領選で主要候補者がYouTubeやXなどで大きな視聴者を持つクリエイターやパーソナリティの番組に出演したことにも注目している。これは、政治家が従来型メディアを経由するだけでなく、視聴者との距離が近い個人発信者を通じて支持層に接触する構図を示している。
欧州:TikTokは選挙干渉リスクとして規制対象になった
欧州では、SNS選挙は「若者向け広報」だけでなく、「選挙の公正性」や「外国干渉」の問題として扱われている。Reutersは、欧州委員会がルーマニア大統領選をめぐり、TikTokに対してデジタルサービス法に基づく正式手続を開始したと報じた。
欧州委員会は、TikTokの政治広告や有料政治コンテンツの扱い、推薦システムが操作されるリスクを調査対象にしている。ルーマニアでは大統領選の第1回投票結果が外国干渉疑惑を背景に無効化されており、SNSのアルゴリズムが選挙制度への信頼に関わる問題として見られている。
米国:TikTokは外国発の情報発信にも使われる
APは、Brookings Institutionの調査をもとに、ロシア系国営メディアのアカウントが米大統領選を前にTikTokでの投稿を増やし、TelegramやXよりも高いエンゲージメントを得ていたと報じた。
この報道の焦点は、TikTokが単なる娯楽アプリではなく、若年層に政治的メッセージを届ける可能性を持つ情報空間になっている点だ。記事は、こうした発信が必ずしも米国政治だけを扱うわけではないとしながらも、イスラエル、ロシア、NATO、バイデン大統領の年齢など、分断を生みやすい論点に触れる投稿があると伝えている。
米国:SNSはニュース接触の通常ルートになっている
Pew Research Centerは、米国成人がFacebook、YouTube、Instagram、TikTok、Xなどからニュースを得ている実態を整理している。特に若年層ではTikTok、Instagram、Reddit、Xをニュース接触の場として使う傾向が相対的に強いとされる。
このデータは、SNS選挙が候補者側の発信戦略だけではなく、有権者側のニュース接触習慣の変化でもあることを示している。選挙報道は、新聞・テレビ・ニュースサイトだけで完結せず、短尺動画、投稿、コメント欄、ライブ配信、インフルエンサー解説を通じて再構成されている。
THE GAP編集コメント:SNS選挙を「便利な広報」だけで見ると危うい
各国報道を比較すると、SNS選挙には大きく3つの見方がある。
1. 政治参加の入口が広がった
YouTube、TikTok、X、ポッドキャストは、政治に強い関心を持たない層にも政治情報を届ける入口になっている。特に若年層や既存メディアへの信頼が低い層にとって、政治家本人の動画、切り抜き、第三者の解説は、ニュース番組よりも身近な接点になりやすい。
2. 既存政党と新興政党の競争条件が変わった
SNSは、資金力や組織力で劣る新興政党にとって、認知拡大の手段になり得る。日本の参政党、欧州の右派政党、米国のクリエイター政治はいずれも、既存メディアの枠外で政治的可視性を獲得する動きとして見ることができる。
3. 情報の信頼性とアルゴリズムの責任が争点化した
一方で、SNSはデマ、誤情報、感情的な分断、外国干渉のリスクも増幅し得る。特にTikTokやYouTubeのような推薦型プラットフォームでは、どの情報が誰に届くのかが外部から見えにくい。欧州でTikTokが規制対象として扱われているのは、SNSが選挙広報の道具を超えて、民主主義のインフラに近い存在になりつつあるからだ。
SNSが選挙を変えていることは確かだが、SNSだけが選挙結果を決めているわけではない。物価高、移民、雇用、住宅、既成政党不信、候補者の組織力、地上戦、既存メディア報道が重なったうえで、SNSはそれらを可視化し、拡散し、時に歪める装置として働く。
読者がSNS選挙を見る際には、「どの候補がバズったか」だけでなく、「誰が発信しているのか」「どの情報が切り抜かれているのか」「元発言は何か」「プラットフォームの推薦によって偶然見えているだけではないか」を確認する視点が必要になる。



